2008年から2014年までのNicholas FeltonさんのAnnual Reportについて

2月13日にNicholas Feltonさんの話を聞きに、FITC TOKYO 2016に行ってきました。2008年からAnnual Reportをコレクションしてきたのですがレポートの内容はそこまで理解していなかったので、このチャンスを逃すまいとイベントに参加してきました。


Nicholasさんの発表は、Personal Processes

Nicholasさんの発表は、Personal Processes

アニュアルレポートとは一般的には企業の年次報告書のことなのですが、NicholasさんのAnnual Reportは、彼自身の様々な個人的なデータを視覚化してまとめたものです。2005年に1年の総括として、撮った写真、旅行先、聞いた音楽、読んだ本などを手作業でまとめたそうです。2006年は行動をもっと詳細に記録して、レストランで何を好んで食べて飲んだかなどが記録されたそうです。2006年からリクエストが多かった理由から印刷物として発行し、2007年は更に詳細に消費したカフェインの量やニューヨークの地図でどこの通りを歩いたかなどを視覚化しています。2007年まではより詳細にという流れだったのですが、2008年からテーマを決めてある軸を基準にデータを分析するというアプローチになったようです。


Annual Reportについて詳しく聞けました

Annual Reportについて詳しく聞けました

見た目のクオリティの高さから毎年楽しみに集めていたのですが、内容についてはあまり理解できていませんでした。そこで改めて手持ちの2008年のAnnual Reportから見直してみました。

2008年:移動距離

2008年は移動距離をテーマにしたそうです。これまでと同じように聞いた音楽の数や種類、読んだ本、撮った写真、働いた時間や飲食のデータなども視覚化しています。表紙が1年間にどの手段でどの程度移動したかを表した三角形のツリー構造になったダイアグラムになっています。一番上の三角形が1年間のトータル38,524マイルを表しており、その下がリアルの距離とグランド・セフト・オート4というゲーム中での移動距離(見た目に反してこんなお茶目なボケを仕込んでいたとは気づいてなくてゴメンナサイ)に分岐して、その下にそれぞれ乗り物か、乗り物以外かで分岐してという具合です。どの移動手段がどの程度の距離を移動したかを三角形の大きさで表されています。ページを開くと更に各項目を詳細に分析したデータが載っており、価格/マイルでの集計で飛行機が一番安くてジムが一番高い結果が面白かったです。年間の仕事中とオフ、休暇のそれぞれの移動距離のグラフなど、ただのグラフなのですがいろいろなシチュエーションがそこから見えてくるようでした。


2008 Annual Report

2008 Annual Report


グランド・セフト・オート内での移動手段の分析

グランド・セフト・オート内での移動手段の分析


価格/マイルではジムが一番高い

価格/マイルではジムが一番高い


夏の休暇は長い

夏の休暇は長い

2009年:アンケート

2009年は出会った人にカードを渡してアンケートを取るという手法でデータを集めたそうです。これまでの分析方法が1つ1つ手作業で面倒くさいので、もっとシンプルに効率的にデータを集めたいというのがことの発端のようです。出会った人にNicholasさんがどんな様子だったかをウェブサイトからアンケートに答えてもらうというものです。過去にも収集していたデータは「何をしましたか?」「どこにいましたか?」など、活動や場所、飲食のデータも集めているのですが、「彼のムードを教えてください」とか「お気に入りの瞬間を教えてください」とか「そのほか気になったことは?」のような、アンケートをしないと知り得ないデータも取得しているのが、この手法の特徴です。ムードなどのデータをどう数値化していくかについては、Amazon Mechanical Turkというウェブサービス(一番いい写真を選ぶとか、商品の説明文を書くなど、コンピュータだけでは難しい作業を人を介在することによってタスクを消化するウェブサービスで、タクスを実行すると発注者から金銭的報酬が得られる仕組み。)を使ってアンケートで収集した言葉についてハッピーかアンハッピーか、内向的な言葉か外向的な言葉かをレーティングしてもらって数値化したそうです。


2009 Annual Report

2009 Annual Report


ちょいちょいMomofukuが出てくる

ちょいちょいMomofukuが出てくる


ムードのグラフ

ムードのグラフ


また、グランド・セフト・オート!?

また、グランド・セフト・オート!?

2010年:父の足跡を辿る

2010年はNicholasさんの父が他界するという出来事があり、Nicholasさんの父の足跡を辿るAnnual Reportを制作されています。イベントでは父が残したパスポート、ハガキ、カレンダー、スケジュール帳などを見せていただいたのですが、特にスケジュール帳が細かく書かれていて、さすが親子と思いました。これまで身につけたスキルを駆使して、父が生きた足跡をこんなに美しくまとめるなんて父への深い愛情を感じました。イベントの冒頭でデータビジュアリゼーションをするのに必要なスキルとして、デザイナーとしてのグラフィックスキル以外にジャーナリストとしてデータでもってストーリーを探求するスキル、データを探索していくために統計学者のように数字を扱うスキル、そしてデータをビジュアル化するためのプログラミングスキルが必要と言われていたのですが、この年の作業は大量のハガキからどこに住んでいたのかを整理したり、写真からどの場所に行ったのかを調べたりと、よりジャーナリスト的な探求をされていたのが印象的でした。


2010 Annual Report

2010 Annual Report


年ごとのコンテンツ量のグラフ

年ごとのコンテンツ量のグラフ


仕事→子どもたち→旅という移り変わりがわかる

仕事→子どもたち→旅という移り変わりがわかる

2011年:比較

2011年は、2010年のNicholasさん自身のデータが手付かずだったので、2010年と2011年のデータを比較して見せるというテーマで制作されていました。特に親密な4人をピックアップして2010年は青、2011年は赤で表現されています。この年のデータは2年分だったので、作業量も膨大だったのではないかと思います。イベントでも情報の海に溺れてしまったと言われていました。


2011 Annual Report

2011 Annual Report


青の棒グラフが2010年、白の折れ線グラフが2011年のデータ

青の棒グラフが2010年、白の折れ線グラフが2011年のデータ


お母さんと過ごしたデータ

お母さんと過ごしたデータ

2012年:アプリ

2012年はある程度細かくトラッキングしつつ作業量を簡略化するために、Reporterというアプリを開発されていました。Reporterはランダムに今何をしているかについて通知をしてくれるアプリで、1回のアンケートに答える時間は1分程度で一日10回から12回程度通知が来るそうです。アプリにコンスタントに答えることでここまで詳細な可視化がされていることに驚きでした。


2012 Annual Report

2012 Annual Report


点がアプリで回答したタイミング、白い棒が睡眠時間

点がアプリで回答したタイミング、白い棒が睡眠時間


ツールの比較

ツールの比較

2013年:全コミュニケーション

2013年は最もチャレンジングなテーマとして、全てのコミュニケーションをトラッキングしようと思われたそうです。全てのコミュニケーションとは会話、SMS、電話、メール、Facebookメッセージ、手紙です。特にデジタルではないコミュニケーション、会話、電話、手紙をどのようにトラッキングするかが課題となります。そこで何かコミュニケーションをした後に自分自身にアンケートを取ったそうです。イベントではアンケートのデータをまとめた本を見せてくれましたが、結構小さな文字で400ページもの本になっていて大変なことになっていました。コミュニケーションの中でどんな単語が使われたかを分析したビジュアルは、見た目はもう夜空の星のようです。


2013 Annual Report

2013 Annual Report


媒体毎のコミュニケーションのボリューム

媒体毎のコミュニケーションのボリューム


コミュニケーションとして発した言葉の語彙で多いものをピックアップ

コミュニケーションとして発した言葉の語彙で多いものをピックアップ

2014年:一般にリリースされているアプリやデバイスを使う

2014年はAnnual Reportの10年目で最後のプロジェクトです。スタートした2005年は写真データとlast.fmによる音楽のデータぐらいしかなったのが、2014年には様々なデータを一般にリリースされているアプリやデバイスでトラッキングできるようになったというところから、それらのトラッキングを使って視覚化することを最後のテーマとしたそうです。

  • Locations from Moves App
  • Photos from iPhone Photos & Instagram
  • Music from Rdio & iTunes via last.fm
  • Video from Netflix
  • Computing from RescueTime
  • Sleep from Basis B1 Watch
  • Transit from Moves App
  • Activity from Moves & Ski Tracks Apps
  • Heart Rate from Basis B1 Watch
  • Weight from Withings Smart Body Analyzer
  • Drinking from Lapka BAM
  • Driving from Automatic App

イベントでは最後の表紙をこれまで制作してきたAnnual Reportと違うものにしたいと試行錯誤の様子を見せてくれました。パーソナルデータを扱うことは自分自身を鏡に写していることで、そこから自分の姿が見えてくる表現こそ、よいデザインと話されていました。


2014 Annual Report

2014 Annual Report


アプリやデバイス

アプリやデバイス


試行錯誤して作られた表紙

試行錯誤して作られた表紙

データこそが新しい森である

イベントの最後に、データこそが新しい森でありクリエイティブな素材になる、テキストや写真と同じようにデータも扱えるようにしていくべきだと語られていました。


サインもらった

サインもらった


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yamada takuo

有限会社アップルップル デザイナー

カメラと自転車と本屋が好きです。愛知県岡崎市在住。