ピクサー流創造するちからを読んで

以前からデザインとマネジメントについて興味があり、本などで少しずつ情報を入れているのですが、ピクサー・アニメーション・スタジオおよびウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ現社長のエド・キャットムル氏の「ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法(原題は『Creativity, Inc.: Overcoming the Unseen Forces That Stand in the Way of True Inspiration』)」は、最近読んだ本の中でダントツにおもしろかったです。この「ピクサー流 創造するちから」はマネジメントの話だけでなく、エド・キャットムル氏やジョン・ラセター氏の人柄、ピクサーの創業からトイストーリーをはじめとした名作誕生の裏側、ディズニーのピクサー買収、スティーブ・ジョブス氏についてと同時並行でピクサー自身の壮絶なドラマが書かれているので、それも含めて面白さが倍増されているのだとも思います。以前、「メイキング・オブ・ピクサー―創造力をつくった人々」というピクサーの人々を取材して一冊にまとめたノンフィクションを読んだことがあったのですが、個々の映画の裏側やピクサーの歴史については「メイキング・オブ・ピクサー」の方が詳しいのですが、「ピクサー流 創造するちから」はエド・キャットムル氏自身の言葉で、どしたら創造性と問題解決力を育む環境を構築することができるかが書かれており、その一言一言に説得力があって読んでいてワクワクしました。

この本は第1部:はじまり、第2部:新しいものを守る、第3部:構築と持続、第4部:検証の4部構成になっており、1部はどのようにしてピクサーができたのか、4部はディズニーに買収されて社長に就任しディズニーとピクサーをどのように経営してきたのかについての比較的会社の歴史について書かれているのに対して、2部は創造性を発揮するためのポイントと3部は実際にピクサーが実践していることなどが書かれています。会社の規模も売り上げも全然違うかもしれませんが、日々デザイナーとして考えていることのヒントをエド・キャットムル氏が優しく語りかけてくれるような印象でした。

創造性を阻害するものは数多くあるが、きちんとしたステップを踏めば創造的なプロセスを守ることができる、というのがこの本のテーマだ。ピクサーがたどっているステップをこれから紹介していくが、私がとくに重視しているのが、不確実性や不安定性、率直さの欠如、そして目に見えないものに対処するメカニズムだ。私は、自分にはわからないことがあることを認め、そのための余白を持っているマネジャーこそ優れたマネジャーだと思っている。それは、謙虚かが美徳だからというわけではなく、そうした認識を持たない限り、本当にはっとするようなブレイクスルーは起きないからだ。
(序章 再発見より)

いつ何の映画だったか忘れてしまったのですが、初めてピクサーの映画の作り方をメイキングか何かで見たときに、ストーリーボードを並べて会議室のようなところでみんなでストーリーを検討している映像が映し出されていて、当時は想像していたアニメーション映画の作り方のイメージと随分違うなぁと思ったことを覚えています。ただ最近よく思うことにいかにチームで高品質なものを作るにはどうしたらいいのかということもあり、こうしたストーリーの作り方はチームで商品をデザインするという見方で考えても学ぶべきところが多くあるのではないかと思いました。

第5章の正直さと率直さでは、率直に意見交換することの重要性が語られています。ピクサーにはブレイントラストという仕組みがあり、その会議では制作中の作品について率直な意見交換がされるそうです。

ピクサーでは最初に脚本の絵コンテを描き、それに仮の声や音楽をつけて編集し、リールと呼ばれるラフな映画のモックアップをつくる。ブレイントラストは、その時点のバージョンを観て、真実味が感じられない箇所、改善できる点、まったく効果のない部分などについて議論する。ただし、問題を診断するが治療法は指示しない。弱い部分を指摘し、提案や助言はするが、その先どうするかは監督に任されている。(中略)複雑で創造的なプロジェクトを引き受けた人は、その過程のどこかで道を失う。そういうものだ。ものをつくるには、いっときそのものになりきるくらいに入り込む必要があり、ほぼ一体化した状態になって初めて、本当につくりたかったもの見えてくる。だが、それは一筋縄ではいかない。(中略)明確な方向性を取り戻すには、忍耐と率直な議論が必要だ。
(第5章:正直さと率直さより)

興味深いのは、ブレイントラストには権限がなく、どうするかは監督に任されている点。ここのポイントは非常に重要だと感じました。また、ブレイントラストのメンバーは監督や脚本家、ストーリーの責任者など、物語を語ることのできる人たちで、創造性の難しさを自ら経験している人たちとのことです。似たような仕組みに、第10章の視野を広げるに出てくるデイリーズというラッシュチェックの仕組みがあり、こちらは制作スタッフ全員で制作途中の作品を見て率直に意見を交わす仕組みだそうです。さらに第6章の失敗と恐怖心では、失敗の重要性を語っていると同時に、失敗はどこまで許されるかについても書かれています。ブレイントラストで指摘されたことに対して従わなくても良いと言っている反面、ブレイントラストは観客(ユーザー)の代表なので、なんらかの対処をしないといけない。本の中では監督を交代するもしくはプロジェクトを中止する「卓越へ向かう途中の寄り道」か「交代を求める赤い旗」かを判断するのは、監督がクルーからの信頼を失っていないかどうかだそうです。そして失敗を最大限に生かすために、徹底して内省をおこなったそうです。

第10章の視野を広げるには、デイリーズ以外にも、ピクサーが具体的に行っている取り組みが紹介されています。

  1. 全員で問題解決(デイリーズ)
  2. 現地調査でつかむ本物感
  3. 制約の力
  4. テクノロジーとアートの融合
  5. 短編で実験する
  6. 観察力を養う
  7. 反省会
  8. 学び続ける(ピクサー・ユニバーシティ)

個人的に気になったのは、デイリーズの他に、反省会。反省会をやる理由として5つ紹介されていました。

  1. 学んだ教訓を集約する
  2. 水平展開する(プロジェクト参加者以外に伝える)
  3. わだかまりを残さない
  4. 反省会の「予定」が反省を促す
  5. 次につなげる

また、反省会を実施する方法として、以下の3点も紹介されていました。

  1. やり方を変えながら実施する(同じ形式で繰り返すと同じ教訓しかでてこなくなる)
  2. 出席者に次回もやろうと思っていることトップ5と二度とやりたくないと思っていることトップ5の2つのリストを作らせる
  3. データを活用する(測定できるものは測定しその結果を評価し、大半のことは測定できないと理解する)

ここまで成功しているピクサーでさえ、失敗できないプレッシャーや映画製作コストの上昇など、解決しないといけない問題があるようです。第13章創造する環境ではノーツ・デーという丸一日会社を良くするためにスタッフ全員で意見交換をするという話がありました。まるで映画のクライマックスを見ているようなイベントだなと思いました。

来年公開予定の『Inside Out(邦題はインサイド・ヘッド)』という作品があるのですが、本の中でもこの作品のブレイントラストの様子が書かれています。予告編を見る限りまた新しいアイデアが詰まってそうで、本を読んでますます楽しみになりました。

参考にした記事など


yamada takuo

有限会社アップルップル デザイナー

カメラと自転車と本屋が好きです。愛知県岡崎市在住。